導入事例
CASE STUDY
- 設立
- 平成 2(1990)年 5月
- 所在地
- 東京都墨田区堤通ニ丁目14番1号
- 診療科目
- リハビリテーション科、整形外科・リウマチ科、 泌尿器科、歯科
■東京都リハビリテーション病院について
東京リハビリテーション病院
リハビリテーション科 担当医
武原 格 氏(研究担当部長)
導入のキッカケ・課題について
患者の運転復帰への想いに医療機関として応えたい
運転復帰には、道路交通法に定められた病気の疾患をしていた場合に、医師の診断に基づき公安委員会が可否を決定する。「患者の運転可否に関する診断書の対応をしていく中で、運転復帰に纏わる文献や論文、他の医院の情報などもなく対応に困っていました」と当時について武原氏は振り返る。運転は患者にとって生活の一部であり、仕事を行う上で不可欠な手段となる。そんな中、まだ運転シミュレーターが現在のように認知されていない2008年頃に、同氏は知り合いの医師を通じて大型ドライビングシミュレーターを導入した。その後ホンダの運転シミュレーター「Hondaセーフティナビ」が販売され、新たに導入にいたった。
同院の運転支援に係る主な患者は、脳血管疾患や高次脳機能障害を患っている患者さんが多くいる。同氏は、診療を進めながら運転可否に関する相談のアンケート調査を行ったところ、医師や家族への相談の回答が多かった。しかし、一方で誰にも相談できていない患者も多いことを同時に知った。「アンケートや患者とのコミュニケーションを図る中で、治療し、安全な社会に貢献する医師として、患者の運転支援に対する医療機関としての関わりが十分ではないと感じていました。」そのような考えから、同氏は医療機関として、運転シミュレーターを活用したリハビリテーションを通じて、論文や書籍、認知促進など啓発活動にも力をいれていくようになります。
運転シミュレーターの活用
提供する側・利用する側の相互理解が運転シミュレーターの利活用につながる
同氏は、運転シミュレーター導入後からアンケート結果や健常者と患者の運転技術に関する統計や比較調査を実施し、長年培ってきたデータや知見を踏まえ、「Hondaセーフティーナビ」の開発やシミュレーター内のソフト改善に対するアドバイスも行っている。実際の医療の現場から得られるデータや課題を踏まえて運転シミュレーターをバージョンアップさせることで、運転支援の精度向上が可能になる。
「都道府県によっては、疾患後の免許交付前に実施する路上教習に関してのルールにバラつきがあります。例えば東京都では路上教習は行えません。その意味では、運転シミュレーターが担う役割は大きいですね。」と同氏はいいます。
実際に同院は、難易度の異なる様々なコースや画面に指示される色に応じてアクセルを踏む反応検査プログラムなどを活用しながら実際のリハビリテーションにあたっている。
また、同院では運転可否の際に受診する机上試験に合格した患者でも、その内2割は運転シミュレーターによって運転不可の判断となっている。机上検査では、運転再開のための認知機能のレベルや、運転操作のための身体機能が把握できないのに対し、運転シミュレーターは運転に要する機能について総合的に評価することが可能になる。安全に、いつでも、誰でもそのような支援が受けられることがシミュレーターの強みである。
その中で、同氏は、訓練士による患者とのコミュニケーションも運転支援のポイントであるという。「運転シミュレーターは試験や検査の利用だけではなく、訓練という形で複数回にわたって操作をしてもらうこともあります。運転機能の回復リハビリを行う観点で、訓練士による患者へのフィードバックも重要です。」
運転シミュレーターは、検査プログラム終了後に、運転評価としてのランク付けされた評価シートが表示される。訓練士はその結果から、患者のモチベーションを上げ、課題や改善ポイントに気づかせ、現状の運転レベルを患者に納得してもらう必要がある。
そして、評価シートの内容に限らず、個々人の特性やプログラム実施時の動作を注視しながら、適切にフィードバックをし、運転機能改善をサポートする。このように診断する医師だけでなく、現場の訓練士による理解と患者へのフィードバックが掛け合わせることで運転シミュレーターの利活用につながっていくのである。
運転シミュレーターの展開
啓発活動の裏にある運転支援当初から掲げる1つのコンセプトとは
運転シミュレーターは医療の中でもまだ歴史が浅い分野である。そのため、医師が納得し、運転シミュレーターについて理解する上では、啓発活動や教育も重要であると同氏はいう。実際に同氏は、障害者自動車運転研究会を立ち上げており、現在は日本安全運転医療学会へと発展している。また論文をはじめ、書籍なども出版し、あらゆる媒体を通じて運転シミュレーターの認知拡大のために積極的に関与している。そのような活動の源泉は、運転支援当初からの1つのコンセプトに起因している。
「最初から僕らのコンセプトは一つあって、『東京都リハビリテーション病院だからできる』にはしないということです。当初、僕自身が運転可否に関する診断に困っていた時のように、他の医師も同じ悩みやジレンマに直面しているはずです。だからこそ、これまで積み上げてきた当院の知見をあらゆる手段で発信するようにしています」と同氏はいう。
近年は、医療の専門学校のシラバスでも運転再開支援を取り扱うようになってきている。従来まで当たり前ではなかったものが、教育の中の一部として浸透してきている状況は、運転支援の認知や活用促進の高まりが伺える。またその影響もあり、医学会の中でも運転支援に関する報告数も徐々に増えつつあるという。

今後の展望
患者の一歩先の将来を見据えた支援に向けて
同院の患者の中には、個人タクシーの方やドライバ―などの患者も多い。リハビリテーションでの身体機能の改善だけではなく、認知機能の改善を通じた運転支援は、患者の中長期的な生活支援にもつながってくる。
「病院というと身体に関わる機能改善、治療のイメージが先行するが、我々はその一歩先の患者の生活や仕事までを見据えて、患者に関わっていくことが大切であると考えています。」と同氏はいう。運転支援を起点に、高齢者に対する運転機能の維持や改善への取り組みも見据えている。
例えば、老人ホームなどに運転シミュレーターを設置し、運転操作をスクリーンに投影しながら、認知機能の維持やリハビリへのモチベーション向上に貢献するといった取り組みだ。また、「高齢者層の多いスポーツクラブ等に運転シミュレーターを設置し、頭の訓練をすることで運転寿命の延伸につなげていきたい」とも同氏はいう。
運転能力としての維持・改善という視点にとどまらず、患者の健康かつ安全な生活を見据えた同院の運転シミュレーターの更なる展開に注目していきたい。

